2010年10月8日金曜日

民主主義の程度と環境破壊の関係は逆U字?

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Buitenzorgy, M., Mol, A.P.J., "Does Democracy Lead to a Better Environment? Deforestation and the Democratic Transition Peak", Environmental and Resource Economics, forthcoming.
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民主主義の程度と環境破壊との関係を分析した実証論文。民主主義の浸透は環境を改善するという研究や、逆に民主主義が環境悪化をもたらすという両極の研究がある中で、この論文は民主主義と環境破壊(森林破壊を用いる)との関係に逆U字の関係があることを示している。つまり成熟した民主主義と非民主主義制度は環境破壊が少なく、民主主義に移行中の国家において最も環境破壊が多く見られる、という関係である。そして民主主義の程度は、所得よりも環境破壊を説明する説明力があるという。

実証分析の精度に関しては精査していないが、なぜ「非民主制の国家や成熟した民主主義国家よりも、民主制へ移行中の国家において最も環境が破壊される」という結果が得られるのか?の説明は興味が湧いてくる。著者たちの予想は以下のようなものである。

『非民主制の国家では、国家の力が強く、民間(市民)社会は発展していない。このような場合には、"強者である"国家は、"弱者である" 民間市民や企業が環境破壊的な行動をとるのを容易にコントロール(もしくは制限)することができる。しかし民主制へ移行中には、弱まった国家の力に対抗するようなパワーが未だ民間(市民)社会に存在しない。だから環境をコントロールするパワーが不在となる。一方で、より民主化が進むにつれて、民間(市民)社会は弱まった国家の力に対抗するパワー(透明性 (transparency) やメディア, NGO団体や説明責任のメカニズムなど)得るようになるからである。』

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(2010.10.08 追記)
国民所得と環境汚染との相関については、”環境クズネッツ曲線(Environmental Kuznets curve)”というものが知られている。工業化が進むにつれて所得が増えるが環境汚染が進み、ある程度所得が大きくなると環境への選好が大きくなり環境汚染が改善されるというもの。

この環境クズネッツ曲線に関して、シンプルなmicrofoundationを与えた理論&実証研究として、Andreoni and Levinson (2001) J.Pub.E がある。排出(環境破壊)削減に関する技術的関係から、所得と汚染とのいくつかのパターンを導出できるというもの。(具体的には排出(汚染)削減技術が、汚染財消費水準と汚染削減努力に関してincreasing returnであれば、逆U字の関係が得られるというもの)。

昔この論文を読んだときには、あまりによく出来すぎた仕組みに思えて、その論文の評価を付けがたい気がしていた。しかし今、Google Scholorで見ると、このAndreoni-Levinson論文は 336件の引用があることがわかる。今や定番の解釈となっているのだろうか。

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(2010.11.12 追記)
環境クズネッツ曲線に関しては、Brock and Taylor (forthcoming in Journal of Economic Growth) の研究も面白い。この研究では、環境クズネッツ曲線が、ソロー成長モデルが密接に関係することを理論・実証的に明らかにしている。簡単に言うと、ソロー型成長モデルで逆U字曲線が簡単に導けるというものである。直感は以下の通り。
収穫逓減より、経済発展初期では急速なoutputの成長が起こり、それに伴い排出が増える(排出削減技術の進歩をoutput growthが上回る)。後に経済が均衡成長経路に近づくにつれて、経済成長は減速し、それを上回るabatement技術の進歩により排出が減る。収穫逓減と技術進歩の相互作用がキーポイントとなる。

同様の理論的直感は、John and Pecchenino (1994: Economic Journal)におけるOLGモデルでも得られていたような記憶があるが、実証までは至っていなかったように記憶している。
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参考
・Andreoni, J., Levinson, A., (2001) The simple analytics of the environmental Kzunets curve, Journal of Public Economics, 80, 269-286.
・John, A., Pecchenino, R., (1994) An Overlapping Generations Model of Growth and the Environment, Economic Journal, 104, 1393-1410.
・Brock, W.A., Taylor, S., The Green Solow Model, Journal of Economic Growth, forthcoming.

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