2010年10月4日月曜日

価格競争と数量競争の比較:公企業と私企業との(混合)複占市場において

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Ghosh, A., Mitra, M., "Comparing Bertrand and Cournot in mixed markets", Economics Letters, forthcoming.
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社会余剰の最大化を目的とする公企業と、自社の利潤最大化を目的とする2企業の複占市場において、ベルトラン(価格競争)均衡とクールノー(数量競争)均衡の比較を行う。

両社ともに私企業である(製品差別化を含む)標準的なベルトランとクールノーの比較では、クールノーよりもベルトランの方が (1) 低い財価格 (2) 低い企業利潤 (3) 高い生産量 (4) 大きな消費者余剰、社会余剰 をもたらすことは有名である。この比較は、例えば非対称(生産)費用を考えると成立しなかったりするのだが、この論文では「公企業の存在」を考えると、上記の結果が成立しないことが明らかにされる。生産費用は対称的、かつ限界費用一定のシンプルなモデルで考えている。


結果は以下の通り。(1) 公企業はベルトランよりクールノーの時の方が低い価格をつける(私企業の方はambiguous) (2) 公企業のアウトプットはクールノーの時の方が大きく、私企業の方はクールノーの時の方が小さい (3) 両企業の利潤はクールノーの時の方が小さい (4) 厚生はベルトランの方が高い、などが得られる。

特に注意が必要な直感は「なぜ公企業がクールノーの場合に、ベルトランよりも低い価格をつけるのか?」であろう。この直感は以下の通り。クールノーの場合に公企業は、私企業の生産水準を所与として、厚生を最大にするべく生産量を決める。私企業がどのような生産量を選んでいたとしても、厚生を最大にする生産量水準を導くには、(公企業製品)価格と限界費用が等しくなるまで生産するのが良い。よって限界費用プライシングとなる。一方、ベルトランの場合、公企業は限界費用プライシングよりも価格を引き上げることで、公企業製品から私企業製品への消費者による代替を促せる。そもそも、私企業製品の過少供給の方が厚生を引き下げる要因としては大きいはずなので、この代替行動が厚生に及ぼす影響はネットでプラスとなる。よって、公企業は限界費用よりも高いプライスをつけることとなる。


例として、線形需要のケースが分析されている。総生産量はクールノーの方が大きく、公企業製品価格もクールノーの方が小さい(私企業製品価格は等しい)。当然、消費者余剰はクールノーの方が大きくなる。しかし、厚生に関しては、やはりベルトランの方が大きくなる(これは標準的結果と等しくなる)。この結果を著者たちはsurprisngと強調している。確かに、不完全市場において、総供給量がクールノーの方が大きく、両財の価格もクールノーの方が低くなるのにも拘らず、厚生が低いのは(逆に)驚きの結果だと言える。これに関しては、あまり説明が出来ていないようにもおもえるが、これは「総生産量はクールノーの方が大きいが、両財の消費量のは、ベルトランの方が小さくなる」という事実と、効用関数の形状(効用関数が両財の消費量の差を嫌う)を組み合わせて完成、となるのだろう。

(ところで2財から効用を得るという効用関数(一般形)の(2財消費量にかんする)交差偏微分が負であるという仮定((∂2U(a, b))/(∂a ∂b) < 0 )が普通になされているのだが、これは良いのだろうか。代替財の(逆)需要曲線の特徴を都合の良いようにするために課されているのだろうが、この分野では一般的なのか、少し戸惑う。)

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