2010年3月23日火曜日

多数決投票・行政区域の合併・公共財供給

___

Dur, R., Staal, K., (2008) Local Public Good Provision, Municipal Consolidation, and National Transfers, Regional Science and Urban Economics, 38, 160-173.
___

それぞれ独自にlocal public goodsを供給している隣接する2つの自治体(cityとvillage)があるとする。公共財には正の外部性があるために、独立的な意思決定ではunderprovision problemが起こるはず。cityとvillageは人口のみが異なる(cityの人口が多い)。

この論文では、そのようなcityとvillageとの合併問題を考える。特徴的なのは以下の点:
合併すると、majority votingにより、人口の多いcityの意見が通る。具体的には、合併した場合には、cityの代表がcity, villageの公共財供給量と、両地域共通の税負担を「city住民の効用を最大化するべく」決定する(とても簡単なpolitical economy modelの表現だ)。


結果として:

  1. 自治(独立)の状態では、公共財は過少供給
  2. 合併はvillageの過少供給問題を解決しない(より悪くなるケースも)が、cityにおいてはoverprovisionとなる。
  3. cityは常に合併をwelcomeだが、villageでは社会厚生の観点から過少な合併へのインセンティブしか持たないことがある。
  4. 用途特定型(earmarked)transfer from national governmentは、公共財の過少供給を和らげるが、合併のインセンティブを変化させない。
  5. lump-sum transferは、villageの合併へのインセンティブに影響を与える。具体的には、city と villageに同じ総額の税を課すことで、人口の小さなvillageが人口の大きなcityと合併してその負担をshareするインセンティブをつくりだすことで、合併へのincentiveを生み出すことができる。
  6. 拡張として、合併後にcityとvillageとのtax discriminationが出来るケースと、それに加えて、villageが合併からの逸脱(secession)が可能なケースも分析。後者では、socially optimal allocationが実現する。これは特に面白い。


[メモ]
モデルがシンプルで、分析の進め方もとても良い。分析のvarietyも豊富で、結果もクリアである。なぜこのような論文がもっとランクの高い雑誌に載らなかったのだろうか、と疑問を持つ程。拡張の余地はあるが、それほど大きな仕事は残されていないよう。それよりも、この分析の方向性と枠組みを、他のトピックスで使う方が賢明(例えば人口の違いでpolitical econと簡単にリンクできるところなど)。また、english writing skillの向上のためにも、この論文の表現の簡潔性は役にたつかもしれない。