2010年9月28日火曜日

最低品質規制(MQS)と共謀

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Ecchia, G., Lambertini, L., (1997) Minimum Quality Standards and Collusion, Journal of Industrial Economics 45, 101-113.
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垂直的差別化財の複占価格競争モデルにおいて、最低品質規制(Minimum Qulity Standard: MQS)の効果を考える。従来のMQSは低品質財生産企業(LowQ firm)の品質を外生的に引き上げた時の高品質財生産企業(HighQ firm)の反応、および価格競争に及ぼす影響を考察していたのだが、ここでは内生的なMQS水準の決定がなされる。内生的なMQSがある場合、それがない場合と比較して、両社の品質が向上し,LowQ firmは利益増,HighQ firmが利益減となるという(逆説的な)結果が得られる。また、MQSの導入によって、両社の価格カルテル(Price Collusion)の形成されやすさにどのように影響するかを分析している(Collusionを維持するためのcriticalな割引因子にMQSがどのような影響を及ぼすかを考察することでそれを得ている)。結果としてMQSの導入は、カルテルを維持困難なものにするという結果が得られる。

この研究以前の垂直的差別化財の複占モデルでは、LowQ frimの財の品質レベルを外生的に引き上げた場合の均衡分析を行っていることを考えると、この研究の意義は大きいと言える。具体的には、内生的なMQS水準の決定は、LowQ firmの選択をないものとして、代わりに政府が社会厚生を最大にするべくLowQ goodsの水準を決めるという形でモデル化される(つまり、HighQ firmと政府とのQuality choiceの同時決定という形)。政府が決めるLowQ水準は LowQ firmが設定するよりも高く、それゆえにHighQ firmの品質もMQSがない時より高くなる(元々Quality choiceが戦略的補完なので)。

注意するべきは、Full market coverageの仮定を使っていることである。これを使えば、計算が容易で,こういった内生的なMQSを考えてもclosed formで割ときれいな解が出る。よって、まだ応用範囲がありそうな気がする。

(ただし、この手の分析で、安易にFull market coverageを仮定するのは危険な場合がある。代表的なのは Maxwell (1998) に対するBacchiega et al. (2010) の指摘(「Maxwell (1998) の結果は自らが仮定した full market coverageの仮定に矛盾する」)である。過去の記事を参照。)

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参考
Maxwell, J.W., (1998) Minimum Quality Standards as a Barrier to Innovation, Economics Letters 58, 355-360.
Bacchiega, E., Lambertini, L., Mantovani, A., (2010) On MQS Regulation, Innovation and Market Coverage, Economics Letters 108, 26-27.

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