2010年9月28日火曜日

国際的なテロリストへの対策を各国の民主的なプロセスに委ねると…

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Siqueira, K., Sandler, T., (2007) Terrorist backlash, terrorism mitigation, and policy delegation, Journal of Public Economics 91, 1800-1815.
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2つの国家が、同一の国際的なテロリストから攻撃されるかもしれないという脅威に晒されているとする。各国家は、自発的に対策を講じることができる。この対策は (1) 両国に公共財的性質があり、2国の対策費用の合計が、あるテロリストグループAからの共通の脅威を減らすことになり、しかし、(2) 相対的に対策費用の高い国は、それが低い国よりも、別の(攻撃的な)テロリストグループBからターゲットとして狙われやすくなるという効果があるとする。

このように、テロリストへの対策に戦略的相互依存関係のある2国ゲームにおいて、Besley-Coate流のRepresentative Democracyのフレームワークを援用して、「民主的な政治過程を通じると、(テロへの姿勢について)どのような性質をもつ政治家が選択されるのか」を考えている。

具体的には、1st stageにおいて、各国において政策策定者がmajority votingで選ばれ(戦略的委任)、2nd stageにおいて、1st stageで選ばれた政策策定者が自国のテロ対策規模を決め、3rd stageにおいて、テロリストグループが行動を決定するというモデルとなる。

結果として、各国内での民主的な政治家選択が、より軟弱なテロ対策への姿勢を助長してしまい、テロの攻撃を増加させてしまうという、両国の厚生にとって良くない結果をもたらすというもの。国際的なコーディネーションが必要である理由付けになる。

肝になるのは、2nd stageでの戦略変数の戦略敵関係である。これが戦略的代替関係にあれば、1st stageにおいて、より少ないテロ対策をコミットするべく弱腰な政治家を選択しようとしてしまうのである。これは、テロ対策費が公共財的な性質を持つことの「ただ乗り」効果と、(他国よりも)目立った抵抗をすることで「報復されるのを恐れる」効果が作用して、戦略的代替関係が得られるのである。また、テロ対策費用の拠出が、二つのテロリストグループの反応を引き起こすというモデル設定と現実のテロ事件や団体と関連させるという手法も見事だと思う。


この手のRepresentative Democracyの応用モデルは、Beslay-Coate (2003) に始まり、環境経済学の中では Siqueira (2003), Buchholz et al. (2005), Roelfsema (2007), (手前味噌で申し訳ないが)Hattori (2010) などでよく見られるものである。
(より広い意味での戦略的委任のパイオニアは、おそらくFershtman and Judd (1987; AER)であろう)


防衛の分野でも公共財供給の分野でも第一人者のSandlerらしい、明解で政策的意義のある良い論文である。

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参考
Besley, T., Coate, S., (1997) An economic model of representative democracy, Quarterly Journal of Economics 112, 85–114.
Buchholz, W., Haupt, A., Peters, W., (2005) International environmental agreements and strategic voting, Scandinavian
Journal of Economics
107, 175–195.

Fershtman, C., Judd, K.L., (1987) Equilibrium incentives in oligopoly, American Economic Review 77, 927–940.
Hattori, K., (2010) Strategic voting for noncooperative environmental policies in open economies, Environmental and Resource Economics 46, 459-474.
Roelfsema, H., (2007) Strategic delegation of environmental policy making, Journal of Environmental Economics and Management 53, 270–275.
Siqueira, K., (2003) International externalities, strategic interaction, and domestic politics, Journal of Environmental Economics and Management 45, 674–691.


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