2010年9月23日木曜日

虚偽広告によるガセネタへの規制は必要か?

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Glaeser, E.L., Ujhelyi, G., (2010) Regulating Misinformation, Journal of Public Economics 94, 247-257.
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同質 N 企業の Cournot 競争モデルで、消費者が企業発の misinformation(ガセネタ)に騙されて財の健康コストを過少に評価(誤解)してしまうモデルを考える。誤解は財の需要曲線が外側に動くように仮定され、それ により消費者は過剰に消費するが、消費後に真のコストを認識して不効用を被るという設定。寡占(または独占)下では、財の過少消費が存在するので、この消費者の誤解が財の過少消費を和らげる効果があり、それによって得られた企業利潤が社会厚生の一部ならば、最適な誤解水準を見いだせる(つまり、消費者の誤解が厚生を高める場合がある)。

消費者を誤解させるための虚偽広告(宣伝)行動は、全企業にとって公共財的性質があることから、独占企業であるなら過剰な虚偽広告がなされ、企業数が多くなると、過少な虚偽広告水準となる可能性が指摘される。 さらに、政府による「打ち消し(訂正)広告」の効果や虚偽広告への課税、物品税などの影響を考察。最後に、企業が財の品質向上投資を行える場合の分析も行われる。

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一般的には、例えば薬品の健康被害について、消費者が製品の品質を誤解して消費する場合、事後的な消費者の効用を損なうことから政府はそのような誤解を招くような企業の広告活動を規制する方が良いと思われがちだが、不完全競争市場では必ずしもそういう規制が望ましくないことが示される。この直感をうまくモデル化している。Glaeserらしく、抽象化するところは大胆に行い、政策的含意が導き易いsimplestなモデルを構築している。「寡占構造の過少消費と、誤解による過剰消費との対比」、そして「誤解を生み出すための投資が(同質的な)企業にとって公共財である」こと、この2点だけで多くの結果を生み出している。現実の実例も豊富で説得的である。

情報の非対称性を扱ってはいるが、消費者の信念や情報のupdateなど、複雑な要素は全く取り込まずに、あくまで「シンプルなモデルでどこまで政策含意が引き出されるか?」に意識があるように感じる。このような姿勢はぜひとも見習いたい。

学部生でも理解できる、ということは、レベルが低いのではなく、逆に高いのだ。

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(追記)A Fine Theorem にも、この論文のレビューがあった。リンク先はこちら

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