2010年9月30日木曜日

役人によるネコババが外部性の問題を効率的に緩和する可能性

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Infante, D., Smirnova, J., (2009) Rent-seeking under a Weak Institutional Environment, Economics Letters 104, 118-121.

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Acemoglu-Verdier (2000) のモデルに、weak institutional environment(「脆弱な制度環境」と訳すべき?)を導入したモデル。weak institutional environmentとは政府や役人/官僚組織の管理能力が弱い場合を考慮するという意味である。具体的には、役人が民間企業に対する税や補助金の一部をレントとして確保(ネコババ)してしまう程度のことを指し、その程度を一つの変数として定義し、Acemoglu-Verdierモデルに組み込む。

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Acemoglu-Verdierモデルを簡単にまとめると以下の通りである。1と基準化された人口のうち、n (<1) の割合が企業家になり,(1-n) の割合が役人となる。企業家のうち、x の割合は c の生産コストがかかる「良い技術(正の外部性を持つ)」を用いて生産を行い,(1-x) の割合は生産コストのかからない「悪い技術」を用いて生産を行う。

政府は企業家の行動(技術の選択)をモニターする為に役人を雇う。役人の賃金は w であるとする。企業家へのモニターはランダムに行われる。モニターされた良い技術の企業は s の補助金を受け取り,モニターされた悪い技術の企業は τ の税金を支払う。政府は、役人を雇い、企業家が良い技術を使った方が悪い技術を使うよりも得になるように s と τ を決め、また政府の予算を満たすように、(役人が企業家に逃げていかないような水準に)役人の賃金 w を決定する。

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上記のモデルに、「役人が民間企業に対する税や補助金の一部をレントとして確保してしまう程度」を導入することが、この論文の貢献である。簡単なモデル分析の結果から、「役人のレントシーキング活動が増える(つまり、役人が税は補助金から多くをこっそり懐に入れてしまう)ことが、悪い技術の企業家の数を減らし、最適な企業家配置の改善に貢献することがある。また、役人/官僚機構を小さくする効果があり、さらに、社会余剰を改善する場合がある」という定性的結果が得られる。

直感は以下の通り。役人が補助金や税の一部を懐に入れられる程、役人/官僚は税(τ)を増やそうとする。これは悪い技術の企業家を良い技術に転換させ易くする。一方で、(補助金支払い (s) からも官僚はネコババできる設定なので)良い企業家に与えられる補助金も大きくなるので、役人になるよりも企業家になる方がお得になり、役人/官僚機構の割合が減少して、生産が増える。これが厚生を高める、というストーリーだ。

役人のネコババが『補助金を良い企業に届けるときも、悪い企業から税金を集めるときも、同じ割合額だけ可能である』というモデル設定に、結果が大きく依存するような気がしないでもないが、『役人の裁量増加やレントシーキング,または低い質の政府構造が、モニタリング活動を通じて、外部性の問題をより効率的に解決する可能性がある』という結果は、興味深いものである。

(そして何よりも、Acemoglu-Veidier論文のクオリティの高さを痛感する。)
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参考
Acemoglu, D., Veidier, T., (2000) The choice between market failures and corruption, American Economic Review 90, 194-211.

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