2009年8月23日日曜日

企業の戦略的投資を考慮した排出総量規制と排出税の比較

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Glazer, A., Janeba, E., (2004) Strategic Investment by a Regulated Firm, International Tax and Public Finance, 11, 123-132.
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事前の排出削減行動が、事後に設定される環境税or総量規制の水準に影響を及ぼすようなことがある。この論文では、一つの企業(独占企業と考えるのはよろしくない:理由は後述)が、生産行動とは独立した排出削減行動を、政策の前と後に行うモデルを考えている。

ゲームのタイミングは、最初に企業が事前の排出削減量を決める。その後で、政府が排出税、もしくは総量規制の水準を決める。その後、企業は追加的な排出削減(これは、事前のものとは「種類が違う」)量を決定する。つまり、事前の排出削減行動は、その後の政府の政策水準に及ぼす影響を考慮した、戦略的なものと考えられる(事前の排出削減行動は、tax 水準を緩め、また排出割当量を増やす効果がある)。

排出削減(事前も事後も)コストの凸性と、環境被害関数の凸性という緩い仮定の下で、以下が示される。

  1. 政策がtaxであるならば、事前の排出削減量は、socially optimal levelよりも大きく、政策策定後の排出削減量はそれよりも小さく、そして総排出削減量はそれよりも大きく(つまり良い環境に)なる。
  2. 政策がquantity regulationであるならば、事前の排出削減量は、socially optimal levelよりも小さく、事後は大きく、総排出削減量は小さく(つまり大きな排出量)になる。
  3. taxはover-abatement, quantity regulationはunder-abatementになるならどちらが良い?

    • 事後の排出削減費用が線形ならば、tax も quantity regulationも同様にefficient.
    • 限界環境被害が線形ならば、tax がefficient. quantity regulationはinefficient.
    • 政府が、両政策に違いなく固定された総排出量をターゲットとするならば、quantity regulationがefficient. taxはinefficient.

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【メモ】
非規制主体が1社となっているが、これが文字通り独占企業であるならば、彼のoutput choiceは過少になる場合がある。この論文では生産量決定と排出削減は独立的と仮定しているのでOKだが、現実には重要な問題である(総排出量規制と排出税はずいぶん違った効果を持つ可能性がある)。

また、非規制主体が複数(例えば2社)あるならば、ある1社の事前の排出削減行動が政策を緩める効果は、他社にも波及するはず(規制が全ての企業対象になるならば)。この問題点は、Puller (2006) JEEM で分析されている。Puller (206)はOligopolyかつ、事前の行動は排出削減ではなく、cleaner technologyのR&D のケースを考えており、もちろん生産行動とのリンクが問題になる。その所為でPullerの研究はnumerical simulationに頼らざるを得ないほど、複雑になっている。Glazer-Janebaのやり方で、複数企業による事前行動の戦略的関係を明らかにする研究は面白いかもしれない(private provision of public goodsのようになるはず)。

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