___
Dur, R., Glazer, A., (2008) The Desire for Impact, Journal of Economic Psychology 29, 285-300.
___
労働者は賃金だけでなく「自らの影響力(impact)」に対して選好を持つことがある。実際、「影響力のある人間になりたいです」というような言葉は、大学生や社会人の口から、しばしば発せられるものである。この論文では、労働者が「影響力への欲求」を持つ場合に、それが労働市場における様々な現象にどのような影響を及ぼすか、また、それが様々な現象を説明しうることを示している。
「影響力からの効用」は以下の様に定式化される。各労働者は「自らが会社を辞めた場合に、社会から生産量がどれぐらい減少するか」を「自らが雇われていることの影響力」として考える。しかしながら、労働市場の状況(または失業者の数や、失業者と企業とのマッチングの容易さなど)によって、ある労働者が辞めたとしても、企業が直ちにその代わりを見つけることができる場合とできない場合がある。見つけることができる場合には、雇われている労働者の「影響力」は当然小さくなるし、逆なら大きくなる。
このような設定で、不況下において賃金がなかなか下がらない(wage stickiness)理由や、その他労働者への企業特化した専門技術習得への投資にかんするhold-up問題などを考察している。
___
この設定でのキーポイントは、労働者は自らの影響力が大きいと感じるならばその分だけ安い賃金でも労働供給する(逆もまた成立)というものである。そしてこの影響力が、労働市場や雇用環境、技術の差異などによって影響を受けるというものである。効用関数にかんする小さな拡張から、様々な経済現象の解明まで持って行く技術は、見習いたいもの。
しかし、このような設定の「影響力」を、本当に労働者が求めている「影響力」なのかは、疑問が残る。「影響力の効用があるから、賃金が低くても働く」「影響力がないような仕事なら、高い賃金でないと働きたくない」と言葉にしてみると、少し奇妙な感じがする。おそらく人は、「高い賃金をもらったという実感」から、「自らの影響力がどの程度か」を推測するものであるように思うからだ。
2010年7月28日水曜日
2010年7月26日月曜日
行政区域をまたがるチャリティーとクラウディング・アウト
___
Lee, K. (2008) Voluntary Contributions and Local Public Goods in a Federation, Journal of Urban Economics, 63, 163-176.
___
しばしば低所得者への補助などのチャリティーが、行政区域(地域)をまたがる大きなチャリティー団体によってなされることがある。ここに2つの行政区域(地方政府)があり、各地域の住民が自発的にチャリティー団体に寄付をするシチュエーションを考える。あつまった寄付は、「ある一定の割合(ルール)」で、2地域の低所得者に分配されるとする。また、各地方政府は、その地域住民から税を取り、自地域の低所得者への支援に使っている。各住民は、自分の地域の低所得者の厚生からも、他地域の低所得者の厚生からも、自らの効用として(公共財効用として)効用を感じる。
もし、地域が一つしかなければ、これは伝統的なvoluntary provision of public goodsとなる。なので、地方政府の1単位の政府支出増加(低所得者への支援増)は、one-to-oneのcharitable givingの減少をもたらすことになる。しかし、ここでは、2つの地域があり、ある地域で集まったcharitable givingが他地域へも流れることになるというリンクから、このone-to-one crowding outは成立しなくなる。
___
当然と言えば当然の結果。地方政府の公共財供給増加(低所得者への援助増加)は100%自地域住民によってファイナンスされるが、その分だけ自地域住民がcharitable givingを減少させても、チャリティーを通じての公共財減少は「ある一定の割合」しかないからである。よって、政府支出の増加は、自地域の公共財水準を増加させ、他地域の公共財水準を減少させる。至極当然。
このpaperは重要な側面、つまり、チャリティー団体の意思決定(目的)を考慮に入れていない。つまり、チャリティー団体の分配ルール(論文中の θ )が外生変数であるのだ。もし、チャリティー団体の意思決定を考慮するなら、政府支出の増加により、分配ルールを変更するのが目的にかなうかもしれない(例えば ¥max_{¥theta} z_1+z_2 とか、¥max_{¥theta} ¥min[z_1, z_2] とか)。この点を考慮すると、Federation Linkを考慮しても、理論的には100% crowding-out theoremは成立する可能性がある。
Lee, K. (2008) Voluntary Contributions and Local Public Goods in a Federation, Journal of Urban Economics, 63, 163-176.
___
しばしば低所得者への補助などのチャリティーが、行政区域(地域)をまたがる大きなチャリティー団体によってなされることがある。ここに2つの行政区域(地方政府)があり、各地域の住民が自発的にチャリティー団体に寄付をするシチュエーションを考える。あつまった寄付は、「ある一定の割合(ルール)」で、2地域の低所得者に分配されるとする。また、各地方政府は、その地域住民から税を取り、自地域の低所得者への支援に使っている。各住民は、自分の地域の低所得者の厚生からも、他地域の低所得者の厚生からも、自らの効用として(公共財効用として)効用を感じる。
もし、地域が一つしかなければ、これは伝統的なvoluntary provision of public goodsとなる。なので、地方政府の1単位の政府支出増加(低所得者への支援増)は、one-to-oneのcharitable givingの減少をもたらすことになる。しかし、ここでは、2つの地域があり、ある地域で集まったcharitable givingが他地域へも流れることになるというリンクから、このone-to-one crowding outは成立しなくなる。
___
当然と言えば当然の結果。地方政府の公共財供給増加(低所得者への援助増加)は100%自地域住民によってファイナンスされるが、その分だけ自地域住民がcharitable givingを減少させても、チャリティーを通じての公共財減少は「ある一定の割合」しかないからである。よって、政府支出の増加は、自地域の公共財水準を増加させ、他地域の公共財水準を減少させる。至極当然。
このpaperは重要な側面、つまり、チャリティー団体の意思決定(目的)を考慮に入れていない。つまり、チャリティー団体の分配ルール(論文中の θ )が外生変数であるのだ。もし、チャリティー団体の意思決定を考慮するなら、政府支出の増加により、分配ルールを変更するのが目的にかなうかもしれない(例えば ¥max_{¥theta} z_1+z_2 とか、¥max_{¥theta} ¥min[z_1, z_2] とか)。この点を考慮すると、Federation Linkを考慮しても、理論的には100% crowding-out theoremは成立する可能性がある。
ラベル:
Public Econ,
Public Goods,
論文メモ
2010年7月7日水曜日
垂直的製品差別化とマーケット・カバレッジ
___
Bacchiega et al. (2010) On MQS Regulation, Innovation and Market Coverage, Economics Letters, 108, 26-27.
___
Ronnen (1991) RAND 流のvertically differentiated duopoly modelにおいて,Minimum Quality Standard (MQS)がinnovationや厚生に及ぼす影響を分析した Maxwell (1998) Economics Letters の誤りを指摘した超short paper。
このタイプの分析をするときには、market coverageがfullになるのかpartialになるのかをしっかり見極めなきゃいけない。
Bacchiega et al. (2010) On MQS Regulation, Innovation and Market Coverage, Economics Letters, 108, 26-27.
___
Ronnen (1991) RAND 流のvertically differentiated duopoly modelにおいて,Minimum Quality Standard (MQS)がinnovationや厚生に及ぼす影響を分析した Maxwell (1998) Economics Letters の誤りを指摘した超short paper。
このタイプの分析をするときには、market coverageがfullになるのかpartialになるのかをしっかり見極めなきゃいけない。
登録:
投稿 (Atom)