Jackson, M.J., Morelli, M., (2007) Political Bias and War, American Economic Review 97 (4), 1353-1373.
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なぜ戦争が起こるのか?なぜ大国よりも小国の方が戦争を仕掛けやすいのか?なぜ民主主義国家間の戦争よりも,そうでない国家間の戦争の方が起こりやすいのか?(これは"Democratic Peace"と呼ばれる)
Jackson-Morelli (2007)は,これらをうまく説明する簡単な2国ゲームモデルを提示し,これらの歴史的事実を説明する決定的な要因の一つとして「政治的な偏り(Political Bias)」の存在を指摘する.
ここでの political bias とは,以下のようなものである.
「戦争(の勝利)によって得られる利益と,被る損害(戦争のコスト+負けたときの略奪される利得)を,戦争の開始にかんする意思決定者(独裁者でも良いし,民主主義的なメディアンヴォーターでもよい)がどのように評価しているか」である.
もし,勝利したときの国家的利益のうち,aの割合が意思決定者に帰属し,戦争の国家的コストの a' の割合が意思決定者に帰属するとき,a'/a = 1 であれば,その意思決定者は「偏りがない unbiased」と言える.もし,a'/a ≠ 1 であれば,その意思決定者は,国全体に及ぶ戦争の便益とコストを正しく認識していないという意味で「偏っている」.
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単純なモデルから,いくつかの興味深い結果が得られる.
- Transferを伴うような戦争を回避するかどうかの協議が出来ない場合,偏りのない国は戦争を仕掛けようとはしないが,偏りのある国は戦争を仕掛けるインセンティブを持つ.このインセンティブは,自国の所得に対して減少的で,他国所得に対して増加的である(つまり,小国ほど,戦争を仕掛けるインセンティブが大きくなる).
- もしpolitical biaseが存在しないならば,一方から他方の国へのtransferをともなうことで,戦争を回避することが可能である.
- 片方(もしくは両方)の国が,強く偏っている場合には,どんなtransferを用いても,戦争を回避することはできない.
- 戦争回避のためのtransferが行われうる場合には,少なくとも一方の国は,戦略的に偏った政治家を選出するインセンティブを持つ.
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さて,このモデルには決定的な問題点がある.それは,戦争の直接的なコストが「国民所得の一定割合」であり,戦争に勝利したときの戦利品が「相手国の国民所得の一定割合」というモデルの仮定である.この仮定の下では,明らかに,大国(所得の大きな国)は,小国よりも戦争の直接コストが大きくなり,また,戦利品の大きさも小さくなる.よって,政治的偏り云々以前に,小国は大国よりも戦争のインセンティブは高くなる.自明である.この仮定は,事前のtransferが戦争回避に有効かどうかの分析結果にも,大きく影響するかもしれない.
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